盗賊ケラ太郎
大井村の西のほうに土井の端というところがあります。
そこに昔、ケラ太郎という盗賊が住んでいました。
その近くの蓮久寺の住職に、蓮住院というお坊様がおられました。
ある時、お坊様はケラ太郎に向かって、
「おれの枕にしている財布を盗むことができるか?」
といいました。ケラ太郎は
「それはまことにお易いことでございます、今宵参りましょう」
といって帰っていきました。
さてその夜、お坊様はケラ太郎が来るのを今か今かと待っていました。
ちょうどその夜は大雨だったので、
「こう大降りではケラ太郎も来ないのではないか」
と思っているうちにお坊様はとうとう眠ってしまいました。
一方、ケラ太郎はお坊様の部屋に近い軒下に傘をおいて機をうかがっていました。
お坊様が眠ってしまったのを見て部屋に忍び込みました。
しかし財布はお坊様が枕にしているので抜き取れません。
そこでケラ太郎は持っていた濡れ手拭いを絞って、お坊様のつるつる頭の上にしずくを一滴落としてやりました。
するとお坊様は目を覚まし
「雨が漏るな」と頭をあげて独り言を言いました。
ケラ太郎はすかさず財布を奪って逃げたということです。
参考文献 瀬戸町誌